
私は昨年この欄で、高知は森と海と太陽に恵まれており、この財産を糧として独自の文化と産業を形作ってきたと書きました。これからもこの自然の恵み を利用して独自の文化と産業を発展させることが高知の生きる道だとも書きました。その中でも特に木質バイオマス利用の意義と高知の現状を報告しました。 あれから1年、森林バイオマス利活用に対する関心が、林業や木材工業界のみならず漁業や農業まで拡大し、全県下で活発に議論されるようになったことは 喜ばしいことです。今年5月には、「森、川、海の再生を目指す」シンポジウムが高知県、高知大学、京都大学の主催で開かれ、大盛況となったのは、県民 全体の関心の高さを伺わせるものでした。バイオマス利用―森林保全―里と海の再生、の図式が県民の共通意識として定着しつつあるものと思われます。今年2月、京都議定書が発効しました。日本は、2010年までに、炭酸ガス(CO2)などの温暖化物質を1990年基準で6%(2003年基準では14%) 減少させる義務を負ったことになります。温暖化物質はCO2だけではありませんが、発生量を考えてほとんどがCO2の責任と考えれば、2010年までに石油 などの化石燃料の使用量を14%削減しなければならない、ということになります。これは大変なことです。ただし、6%のうち3.9%は森林吸収によっても よい、ということになっています。(14%のうちの何パーセントなのかは、誰もいっていないのでわかりません。)ここで森林吸収とはどうゆうことでしょ うか。また、これに関連してよく言われる「カーボンニュートラル」とはどうゆうことでしょうか。今回は、これらの言葉をキーワードに、木質バイオマスの エネルギー利用について日本と高知の現状との関係について考えて見ることにしましょう。
森林吸収とは、光合成を活発にできるように森林を整備し、エネルギー源として木材を使いなさい、木を燃やして得たエネルギーは温暖化物質の排出量に は計算しません、ということです。これが「カーボンニュートラル」という考えです。石油でも石炭でも天然ガス(メタン)でも木でも、エネルギーを取り 出すためには燃やしますが、そのときには必ずCO2を排出します。そのときに出す熱量とCO2の量を表1に示します。石油も石炭も木も単一物質ではなく複雑 な混合物なのでそれらの状態(ガソリンとか重油とか)や種類、産地などによって異なりますが、表は平均的な数値です。石油を1Kg燃やすと3.15KgのCO2を 排出するということです。木の場合は排出量が小さいように見えますが、燃焼で出す熱量が小さいので、熱量あたりでは石油とほとんど同じ量の炭酸ガスを 排出することになります。それなのに何故木だけはカーボンニュートラルなのでしょうか。
木などの植物は、光のエネルギーを使って水とCO2から合成されて生長します。このとき酸素を放出します。これを光合成と言います。木はすでにCO2を吸収 してできたものだから、燃やしてCO2を出しても森林が整備されていれば再びCO2を吸収して生長します。そのために、何千年も木だけをエネルギー源として きても、化石燃料を使い始めるまでは、空気中の炭酸ガスの量は変わらなかったのです。それだけではありません。木は、燃やさなくても放置しておけば腐 食するものであり、腐食するときに下の式により、燃やした場合と同量の炭酸ガスとエネルギーを排出するのです。
右の式は反応式といわれるもので、△Hがマイナスの時は発熱を示します。1モル(12グラム)の炭素(C)は1モル(32グラム)の酸素(O)と反応して1 モル(44グラム)の炭酸ガス(CO2)を生成し、そのときに393.51Kjの熱量をだす、という意味です。化石燃料も植物も炭素と水素の化合物ですから、酸素 と反応すればこの式が成り立ちます。木は、燃やしても腐食しても、虫に食われるなど途中でどうゆう経過を経ようが、最後にはこの式が成り立ち、地球上 の炭酸ガスを増やしも減らしもしない。カーボンニュートラルとはこうゆうことです。
利用されずに放置されていたり焼却処理されている森林資源を産業活動や生活に利用しようという意義はおわかりと思います。バイオマスとは、現存する 生物を起源とする資源のことですが、そのうち特に木から得られるものを木質バイオマスと呼んでいます。そのうちでもスギやヒノキの人工林から得られる 資源を特に森林バイオマスと呼ぶこともあります。それでは未利用の森林バイオマスは何処に、どれ程あるのでしょうか。森で伐採した時、根や根に近い曲 がった部分や枝葉は林地残材として山に残されます。切り捨て間伐の場合はまるごと林地残材となります。伐採された木のうち、原木市場にだされるのは 30%位と思われます。原木市場では樹皮などが積まれているのをよく見かけます。また、製材所に運ばれたもののうち木材市場に出されるのは50〜60% で、樹皮、おが屑、木屑などが製材所に残されます。さらに、工務店や木工所においても大量のおが屑や木屑が発生します。もちろん、パルプ原料になった り堆肥や畜産に有効利用されているものもありますが、大部分は森林の中で放置されたり、違法に焼却されたり産廃として処理されたりしているのが現状で す。高知県の場合、山元での木材の素材生産量約40万m3に対し、林地残材、焼却、産廃処理を合わせた未利用資源が68万m3もあります。
木質バイオマスとして利用可能なものは、林地残材や製材廃材のほか、木工所や建築現場で発生する木屑、ダム湖などの流木、道路工事などで発生する土 木建設廃材、公園や街路樹などの剪定枝、それに孟宗竹などがあります。建築廃材の場合、防腐剤や接着剤、塗料などの化学物質を含むので通常は除外され ています。これらのバイオマスをエネルギーとして使用するためには、チップ、ペレット、薪、木炭、オガライト、木粉、ブリケットなどに加工する必要が あります。さらにこれらからエネルギーを取り出すために特別な燃焼機やガス化炉が必要です。エネルギー利用は、―発電に使う方法、―燃焼熱を直接利用 する方法、―ガス化してエタノールやDMEなどの自動車燃料を合成する方法、などがあります。発電には、直接燃焼方式、ガス化燃焼方式のほか、石炭との混 焼(西条発電所で実施中)などがありますが、発電の熱効率が低いので副生する熱の利用が必要です(コジェネと云います)。その他、メタン発酵させて燃 料電池とすることも研究されています。自動車燃料の合成にはそれなりの規模の化学工場が必要なので、高知県ではあまり現実的ではないでしょう。高知で はやはり熱の直接利用を中心に考えるべきと思います。木材の乾燥、工業用の熱源、学校などの公共施設、農業ハウス、家庭などの冷暖房などです。昔の効 率の低かったボイラーやストーブにくらべ、今の燃焼機は格段に進歩しており、熱効率は80〜90%にも達しています。
いずれにせよ、木質バイオマス利用には、集材、運送、加工、これらの機器の開発などの問題があり、すでにシステムの成り立っている石油に比べるとど うしてもコスト的に不利となることは否めません。しかしそれはバイオマス利用に適した集材・流通のシステムがないからであり、このシステムを確立すれ ばコスト的にも充分に石油に対抗できるはずです。高知の財産である森林を中心とした自然を保全し、高知の伝統的な文化と産業の21世紀の新たな発展の ために必要なことなのだと考えます。このことは、21世紀のコミュニティー社会のあり方、言い換えれば人間の生き方を考えることでもあるはずです。最近、オーストリー、スエーデン、フィンランド、スイスなどのバイオマス利用先進国についての関心が高まり、高知県からも視察に行く人が増えてきま した。これらの国々では、森林バイオマス利用のシステムが機能し、地域熱供給や発電としてエネルギーの10〜20%を森林から得るまでになっているそ うです。もちろんそのためには国や自治体による税制などの制度上の保護が重要な要素となっていますが、その政策を国民が支持しているからできることな のです。これらの国々は、国民の教育レベルや環境にたいする意識が最も高い国でもあることを思いおこします。決して森林国とはいえないイギリスやドイ ツでも木質バイオマス利用は日本よりははるかに高い水準にあると聞いています。このままでは日本は世界の孤児となりかねません。再び高知から日本を変 える動きを発信する機会がやってきたと思います。
なお、2年ほど前から、私の所に集まる木質バイオマス利用に関する県内外の情報を、「バイオマス通信」として関係者に随時メールでお送りしています (現在、約220名)。
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