杉の大杉
小2の大石樹(たつき)くんは、毎年、夏休みに飛行機で高知にやって来る。昨年は、500系のぞみ、振り子列車の南風と乗り継いで来た。乗り物図鑑を 卒業して、今は時刻表に熱中している。樹くんと娘の葉子が乗っている特急南風に、仕事のあと丸亀から合流した。指定席は先頭車両で運転席の後方右側 である。「岡山から運転手は三人も交代しているのに、おれはズーット運転のしっぱなしの気分だ。くたびれたぜ」と言いながら大満足。
東京へ帰った樹くんから電話があった。「じじ、『四国へGO! サンライズエクスプレス』を読んで!!。おれ、図書室で借りて読んだけど、面白いぜ。来 年はおれ一人で高知に行くからね」「空のちびっ子一人旅?」「違うよ。読んで!」と会話が弾んだ。
小4の大杉翔(しょう)くんと大杉翼(つばさ)くんの友情と冒険の物語である。新築マンションに偶然にも、同じ名字の大杉さんの一家が引越してきた。 二人は、この時からの、3才の時からの仲良しである。春休みに、突然、翼の一家はお祖父ちゃんの農業を継ぐために、高知県の須崎の多ノ郷(おおのごう) に行ってしまった。翔は次第に疎遠になることに焦りを感じていた。そして、土讃線に大杉駅があることを知る。サンライズエクスプレスのノビノビ座席な らば、安く行けることを調べ出す。翔は、東京―坂出―琴平―阿波池田―大杉、翼は、多ノ郷―高知―大杉と乗り継ぐ計画。ハプニングや決断や親切がある が、結局、大杉駅でお弁当を一緒に食べることが出来る。「日本一『杉の大杉』、幹の周囲が20m、高さが60m、樹齢は3000年」と説明のある2本の大杉を見 て、自分たちの名字の由来を想像する。
窓の両側に広がる田んぼや子供たちが泳いでいる大きな川に吃驚する翔。白い塀に囲まれた古くて大きな家、黒い瓦屋根、黒ずんだ木目の板の壁、庭に面 した長い縁側をぽかんと眺める翔。「こんな古い家、いやだよな」と翼。「はよう、寝や」に、「わかっちゅう」と翔の知らない言葉で答える翼。こんな田舎 を知られたくないと思っていた翼、東京から来てすべてを新鮮に感じる翔である。翼も改めて高知の良さに自信を持てるようになる。
「読んだ。面白いね!」という私の電話に「おれ、この本を図書室で発見したときは、本当にびっくりしたぜ。夏休みには一人で高知に行くよ。まだ大杉を 見てないし!」「その大杉駅は去年のお正月に全焼してね。今は新しくなっているんだって。2本並んでいる大杉のように、3角屋根2つの駅舎になってる らしいよ。大杉中学校の子供たちも参加して、再建したみたい」「おれ、見に行くよ!」と樹くんの元気な声が戻ってきた。 参考・「四国へGO!サンライズエクスプレス」、高森千穂作、古味正康絵、国土社、初版(2003.11)