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高知大学 医学部環境医学教室 医学博士 中村 裕之 氏 |
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21世紀は「環境の時代」というのを聞いたことがあるとは思います。昨今の環境問題は、これまでにない様々な複雑な様相を呈してきました。その中心 は、文明の発展とともに生じた副産物による人為的環境、特に大気汚染から端を発した地球温暖化の問題、水質、土壌を汚染してきた化学物資、特に環境ホ ルモンによる生体影響、電磁波などの目に見えない通信環境による不安、近年のアレルギーの増加をもたしている新しいアレルゲンの出現などです。これら を解決する間に、また新たな環境問題が出現するといった具合です。私たちの環境医学教室では、これらの新時代の環境問題を中心に、環境と生体の関わり を解明し、その健康に与える影響を改善する方策を考案し、社会的に応用できる対策を立てることを目標としております。以下、特に重点的に取り組んでい るテーマについて説明いたします。1.分子アレルギー予防医学―環境化学物質によるアレルギー発症メカニズムの解明 近年アレルギー疾患は先進工業化国で一様に増加し、その原因として諸説が挙げられていますが、大気汚染や化学物質の影響、食生活環境の変化も指摘され ています。なかでも、都市部においてはディーゼル排気粒子による大気汚染が著しいことから、アレルギー疾患との関連が示唆されており、浮遊粒子状物質の みならず、ディーゼル排気粒子に含まれる環境化学物質の影響が考えられます。したがって、アレルギー発症に関係する環境化学物質をスクリーニングするシ ステムの確立は、最も急がれることはいうまでもありません。したがって、我々の研究室は、鋭敏で特異性の高く、迅速な診断が可能となるシステムの開発を 目指しております。
アレルギーの病態は、感作抗原に対する抗原提示細胞からhelper T cellなど免疫細胞の応答が、繰り返し抗原暴露を受けたため、helper T cell type2(Th2) 優位になった結果と考えられています。また環境化学物質がTh2分化に影響することを実験動物系で示した研究例があるように、IgE産生以降の反応系の影響が 特に関与しています。すなわち、化学物質によるアレルギー疾患への影響として、IgE産生で評価するのではなく、Th2分化に至る過程、およびアレルギーの病 態に重要な好酸球活性化の過程等におけるサイトカイン、ケモカイン、ケミカルメディエーター等の遊離を指標とする評価の方が重要と考えています。
図 スギ花粉症発症における遺伝と環境の相互作用モデル 黒矢印の太さは花粉症暴露の大きさを表し、白抜き矢印は遺伝子の 感受性よりも暴露の大きさが小さいため、発症しないことを意味する。
現在製造・使用されている化学物質は数万種といわれていますが、その健康リスク評価は十分でないと考えられます。従来、比較的高濃度域における直接的 影響で化学物質の免疫毒性評価をしているのに対し、このような反応系への影響は低濃度域影響である可能性が高いと考えています。このような比較的低濃度 の環境化学物質によるアレルギー反応活性化影響をなくすことによるアレルギーの予防研究は、発症した人を対象とする従来の治療法の開発とは根本的発想が 異なり、新しい環境医学的発想に基づいています。このような研究の成果を実験動物系へと発展させれば、薬剤療法、免疫療法などの現行の治療や、今後開発 されるワクチン療法やDNA療法に対する有効な評価として応用できるものと確信しております。2.アレレルギー性疾患における新しい遺伝子の同定と遺伝と環境の相互作用に関する研究 私どもの文部科学省「スギ花粉症予防班」は、環境と遺伝に関する疫学調査を実施し、感受性遺伝子としてEosinophil peroxidase (EPO)の遺伝子を初めて 発見しました。また、Interleukin 4 receptor A(IL4RA)などの遺伝子の多型と花粉症発症の関係がスギ花粉暴露量を混絡因子として存在するとする疫学モデ ルを提唱したところです(図)。好酸球の機能異常は、喘息やアトピー性皮膚炎などの他のアレルギーと共通しているため、いわゆる「アレルギー体質」の本 質がEPO, CCR2, CCR3を中心とした好酸球関連の遺伝子多型にあると推定されるため、他のアレルギーとの関連で、感受性遺伝子を同定する研究をすすめてお ります。これらの解明から、予防がどれだけ有用かを知り、個人ごとの予防法を導入するといったオーダーメイドの予防法を実践に移すことを目標としており ます。
3.気管支喘息症の重症度に関連する好酸球関連蛋白の機能とその遺伝子多型 気管支喘息症は、軽症から重症までの様々な病態が関わることが知られており、感受性遺伝子の関与を、軽症と重症において同一に捉えることはできません。 気管支喘息症の感受性遺伝子のうち、重症度に関わる遺伝子を同定することで、喘息症を重篤化させない予防法および治療法の開発、特にオーダーメイド医療 の実現の礎を築くことを目標としております。