サツキとメイの家 ぷらっとウォーク
 会場では、人気のないパビリオンを選び、列に並ばないでも済むような簡単な食事にし、疲れたら日陰で寝転び、愛・地球博と名前を付けた万博の 雰囲気を感じて帰ればそれで良いと思って出発した。しかし、後悔が山ほど残る見学旅行だった。
 不思議なことに、800人/日、24,000人/月しか入場できない「サツキとメイの家」の予約券が当たった。確率4%ほどと聞かされた。「見る楽しみ、 感じる楽しみ、昭和の暮らしをのぞいてみよう!」とあり、「となりのトトロ」の主人公、サツキとメイが住む家が見事に再現されている。私が大学を 卒業した年が昭和30年である。
 父親の転勤が多かった子供時代であるが、どこの地域に行ってもこのような家に住んだ。上がり湯のある鉄鍋のような風呂場、土間に"流し"や"かまど" のある台所、茶箪笥やちゃぶ台のある4畳半の茶の間、景色が歪んで見える凹凸の多いガラス戸、ダイアルが選局・音量・再生の3つだけのラジオ、 家具や調度品も生活用品も当時のままであり、自由に開けて触ってみて下さいと案内がある。それらの引出しや棚や押し入れを開ければ、懐かしさが溢 れ出てくるようである。朝夕に長い廊下の雨戸を繰ること、手押しポンプで水をくみあげること、薪で風呂を沸かすことなどが私の日課だった。
 ここで、ラジオの「再生ダイアル」の説明をしなければならないだろう。選局をした後に更に感度を最高にするためのダイアルであり、敏感にすれば たちまち「ピー」と発振してしまう代物である。冷蔵庫、洗濯機、掃除機、テレビ、電子レンジ(オーブン)は勿論ない。エアコンではなく、扇風機で ある。夏の夜は、廊下のガラス戸を開け放ち、風通しを良くし、庭に打ち水をして涼んだものである。しかし、「このような省エネ型の家に住みたいで すか」と聞かれれば返答に困る。トトロが出入りするような、自然環境に恵まれたこの時代の、郷愁を誘うこの家の素晴らしさは充分に理解できるが、 だからこそナメクジが、ごきぶりが、ネズミが出て来るに違いないと思うと素直に答えることが出来ない。
ぷらっとウォーク ところで、「となりのトトロ」の内容をはっきりと覚えていない。帰ってから、DVDを早速に借りてきた。見過ごしていた展示物の意味が甦ってくる。 壁ぎわに置いてあった自転車は、サツキとメイとお父さんの三人乗りで、急を告げに行くカンタの三角乗りで使われる。手押しポンプは川から汲んだ水 を呼び水にしてサツキが動かしている。押し入れの蚊帳も小道具の一つだった。庭を走っていくトトロを蚊帳の中のメイが廊下越しに見るシーンがある。 お父さんもサツキもそれを信じるのが面白い。
帰ってからのDVDの鑑賞は、エアコンの効いた部屋でのプラズマテレビである。インターネット検索で「となりのトトロ」や「サツキとメイの家」の 情報は直ちに手に入れることが出来る。今はこんな便利な世の中である。昭和30年代に住むことはもはや出来なくなっている。となりにトトロが住むよ うな場所はなくなっている。

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