嶋田氏
福井商工会議所
苦情・クレーム博覧会担当

嶋田浩昌氏
第2回経営革新セミナー 第1部


く聞かれるのは「なんで、こんなことを考えたんですか」というお話です。実は、福井県で盛んな産業といいますと、メガネがあります。金属のメタル フレームにつきましては、日本は世界最大の産地です。それから繊維。今はポリエステルとか、ナイロンとか、合繊を使った繊維が非常に盛んになって おります。その結果、非常に高い技術力はあるんだけれど、それを使って何か新しい製品をつくるということができていないのです。下請というのは、 取引先の大メーカーさんから「こんな機能を持った製品ができないか」「こんな性能のものができないか」というハードルを上から与えられるんです。 それに取り組むことには非常にたけているんですけれども、自分たちが商品企画、つまりそういうハードルを立てて、それを乗り越えるというところが 苦手なんです。
 それからもう1つ、中小企業の抱える問題として、販路開拓、営業です。この販路開拓を支援するために私がやっている仕事を少しご紹介します。ま ず、大手の通信販売。それから百貨店。高島屋、三越とか、伊勢丹、京王百貨店、そういった一流どころのバイヤーさんを集めまして、南青山という一 等地で毎年1回、商談会を行っております。このバイヤーさんとの商談会にあたって、私ども商工会議所の職員が地元の企業の商品リストを持って売り 込みに行くのです。飛び込みに近い営業です。景気のいいときは、お付き合いでご参加いただいたのですが、最近はすごいビジネスライクです。悲しい かな、1年目やったときにはさんさんたる結果でした。バイヤーさんにぼろくそ言われました。何がつらいといいましても、売れない商品を売って歩く 営業マン、これが一番つらいです。身をもって体験いたしました。それをどうしたらいいのかというところが、この「苦情・クレーム博覧会」のきっか けとなったわけなのです。


れで、できるだけ中小企業がリスクを少なくして、ヒット商品を売るにはどうすればいいか、1つが作ってから売るのではなく、お客様のニーズ、市場 のニーズ、ウォンツをちゃんと聞いて、そこからものづくりをやりましょうよ。よく言われていることですけれど、なかなかできないのです。結局、技 術力はあるんですけれど、何をつくっていいか分からない。つまり、Howの技術はあるんですけれども、Whatの技術がない。「では、マーケティングを やればいいんじゃないの?」と言われる方がいらっしゃいますけれど、中小企業の資金力、人材でマーケティングなんかできるわけがないのです。どう したらいいかということを課内で、「ああだ、こうだ」と議論しているときに、ぽっと出た言葉が、「苦情は宝って言いますよね」という一言だったの です。「おっ、それ、面白い。苦情を全国から集めようよ。絶対その中に新しい製品、新しいサービスのアイデアが隠れているはずだ。やろう。やろう」 と盛り上がったのです。


苦情・クレーム博覧会 終的に1年間で4,467通の応募がありました。事業がうけたわけを考えますと、1つは、やり場のなかった苦情、不満を消費者の方がたくさんお持ちだっ たということです。それから、報酬がもらえるというゲーム性、遊び心。それから苦情を買うという逆発想。それから商工会議所という安心感。
 いくつかご紹介します。洗濯機、これは松下電器さんの話です。松下は洗濯機をつくっています。当然、松下に洗濯機の苦情が来るんですけれども、 洗剤や衣類の苦情は来ないのです。直接、ライオン、花王、それからユニクロとか、洋服をつくっているメーカーに行ってしまって、その周辺の苦情が 松下には来ない。ところが洗濯機をつくる上で、そういう苦情が非常に大事なのです。では、そういう苦情を花王やライオンにくれと言ってくれますか。 くれないんですね。そういった苦情が見られたのが非常にありがたかった、そういうお声もありました。
 それから2日間、ずっとパソコンをたたき続けた30代の2人組の方がいらっしゃいました。皆さんよくご存じのゲーム機メーカーのマーケティング 担当の方だったのです。「私たちは世の中がこれから右へ行くのか、左へ行くのか、それを知るために来たんです。これからも のづくりをする上で、世の中がどっちの方向へ行こうとするのかを知るために、この苦情というのは非常に象徴的なんだ。大変勉強になりました。自分 の苦情はよく見えるんですけども、人の業界の苦情なんて来ませんから、それを見せてくれてどうもありがとうございました」とお帰りになった 2人もいらっしゃいました。
 それから頭では、「苦情は宝」ということが分かっているんですけれど、実際、苦情が来たときにどうするか。絶対に穏便に早くお帰りいただこう、 納得していただこうということで、ひたすら謝って済ませてしまう。そこから新しいものをつくるとか、サービスを向上するなんていう発想は、絶対に 生まれてない。ところがこういった形で紙に張り出して苦情を見ると、「ああ、やっぱりこれだけたくさんの人が悩んでいるんだとか、ほかの会社でも 同じことを言われているんだと思うと、非常に冷静にこの苦情と向き合うことができました」と言われました。


経営革新セミナー はり苦情・クレームには非常に大きなビジネスチャンスが隠されています。ただそれは、言われた苦情をただそのまま解決すればいいのかという問題で はなくて、そこにやはり一ひねり、二ひねりしないとヒット商品には結びつかないと考えております。それは昔あった連想ゲームのように社員、それか ら経営者の皆さん含めていろいろなブレーンストーミングをやって、どんどん言い合う。言い合う中に話が膨らんでヒット商品のヒントとなるものが生 み出されてくるというのが、私の実感です。


年目は、苦情を集めて勝手に見て、あとは皆さんで頑張ってください。これではいけない。苦情・クレームを解決する商品の博覧会を2年目にやりました。 できた商品をここで売りますよ、紹介しますよとスキームを変えたのです。
 実際にどんなものがあったかをご紹介します。まずマジックテープです。実は福井で80%以上つくっているのです。ご存じのようにマジックテープは 非常にうるさい。ベリベリベリとはがす。そういう苦情に対して、減音マジックテープをつくりました。
 それから一番のヒット商品が濡れない傘、「ぬれんざ」です。使った後に自分の洋服が濡れます。自分の車が濡れます。こういう苦情に対応するのが、 この傘です。これは閉じた瞬間に乾いてしまっているのです。それくらい撥水性の高い生地を使っています。もともと社長さんは、この苦情に気がついて いたんだけれど、「苦情・クレーム博覧会」を見て、こんなにたくさんの人がこの問題で頭に来ているのだということに気がつきまして、社長の言葉を借 りれば「ぽんと背中を押された。じゃあ、やってみよう」ということで生まれたのが、この濡れない傘なのです。


年間の総括をさせていただきますと、私どもに寄せられた苦情というのは、実は声なき声なんです。欠陥とか、価値を問う苦情で はないのです。「ここがこんなんだったらもっといいのに」「ここをこうして欲しい」、それは消費者から企業への提案とも言える苦情なのです。 ぜひお考えいただきたいのは、高機能、高性能、これが本当は何なのかというところです。消費者が求めているのは、実は使いやすいための高機能化、高 性能化でありまして、「もう機能的には十分。それよりも使いやすくして欲しい」というたくさんのお話をいただいております。これは各企業がほかの企 業と差別化を図るために余計に混乱が生じている。これが実態ではないかと私は考えております。
 それから他人の苦情は蜜の味。これは決して人の不幸が面白いというものではないのです。よその業界の中にこそ、新しいヒントがたくさん隠されてい るのです。ですから「苦情・クレーム博覧会」をご覧いただくのなら違う業界の苦情を見てください。きっとその業界の人が気づかずに皆さんが解決でき る手法がたくさんあると思います。


経営革新セミナー 年間のベストテンというか、ワーストテンの苦情をご紹介しますと、第1位は自動車です。「炎天下、青空駐車場にちょっと駐車しただけで室内の温度が 異常に高くなります。また冬場は車内が暖まるまでにかなりの時間がかかります。これをなんとかしなさい」という苦情です。5月にトヨタの本社へ行き まして、この話をしたのです。もうドキドキものでした。「ナンバーワンは自動車です」と言ったんですけれども、ギョッという顔をしていました。
 第2位がホットプレート。「もう十分焼けているものと、これから焼くものを一緒に調理できない」。保温カーペットと一緒なんです。「こっちはちょ っと低め、こっちは今から焼く高さ、こういう2面式のホットプレートがないか。つくって欲しい」という苦情で、インターネットでコメントがついてい ます。「私が使っているホットプレートは2面に分かれていて、片面をオフにすることができます。二つ折りにしてコンパクトに収納することもできます。 」ということで、調べたらありました。でも、これも大メーカーの商品なんですけど、大企業というのはこんなものに力を入れませんし、目を向けていな いんですね。でもニーズは絶対にありますから、こういったところに実は中小企業の発展のきっかけがあると思います。


ほどの傘の橋本さん、もともとは農家だったんです。「1本も売れない日が何カ月も続いた」と言いました。でも、それでも逃げずにお客さんの「こうい う傘が欲しい」「ここをなんとかして欲しい」というクレーム・苦情を1つずつ実現していって、今や1億円を超える会社になりました。あの傘ですけれ ど、1本3万円です。「うわーっ」と言うでしょう。日本には買う人がいるんですよ。ですから東京のお金持ちに皆さん、どんどん売りましょう。1本3 万円でも買うという人はたくさんいます。でも社長に聞きますと、金持ちだけでもないんですって。普通の方が、自分へのご褒美とか、自分の記念日に買 われていくという話です。そういうターゲットに絞って、これから皆さん、商売していけば会社の業績が変わるような、そういったヒット商品に絶対出合 うと思っております。この事業を通じまして、福井に限らず地方の中小企業から、これを利用してヒット商品を生み出してください。それが私ども福井商 工会議所の願いです。