土佐の宇宙酒
「きのこの菌糸」や「ヨーグルト菌」やその他の微生物を、日本酒の「酵母菌」と一緒に宇宙に持って行く計画だった。それぞれの菌類を小指の先ほどの カプセル容器に入れる。約40個程のカプセルを箱に並べ、これを宇宙に運ぶ予定だった。この箱には勝手に「ノアの箱船」と名付けていた。いずれも土佐に ゆかりのある微生物たちを選んだつもりである。楽しい夢を運んでくれる生き物たちを、高知の企業をさらに元気にする生き物たちを選んだつもりである。
もう25年も前のことになる。「宇宙空間で、無重力下で、役に立つ材料を作れ」と言われると、アイデアがまったく出てこないことを知った。「役に立た ないこと、楽しいことを探そう」と視点を変えれば、つぎつぎに出てくるものである。当時、思い付くままに書き貯めておいたが、その後これが、ここ高知 で役に立つとは思っても見なかった。「ノアの箱船」の構想もその一つである。
1992年9月に毛利衛さんの搭乗するエンデバー号で、日本初のスペースシャトによる微小重力実験「ふわっと'92」が行われた。無理に知恵を絞って提案し た「高剛性超低密度・炭素繊維強化アルミニウム複合材料の製造研究」もこの時に行われた無重力実験の一つであった。この経験は貴重である。NASA側が提 示した条件で、研究の達成目標を設定して、地上実験などで準備を進めるに従って、条件が次第に厳しい方へ動いていくのである。安全基準を満たしていな い、安全確認が取れていないなどがその主たる理由である。それならば「最初から言ってくれれば良かったのに」と言った感覚である。国際的な、大きなプ ロジェクトでは普通のことである。最初に想定したサンプル容量は単2乾電池程度であったが、実際には単5乾電池の半分のサイズにまで小さくなってしまっ た。安全のために、三重構造のカプセルに入れる必要があったからである。
今回も「やはり」と思うような良く似た状況になった。6種類の高知の酵母菌と数十粒の高知産の酒米だけに限定し、それ以外は割愛せざるを得なかった。 安全が確認された容器を使うことが早道であることが分かり、箱の容量が小さくなったのである。次回に期待しよう。その時は、さらに範囲を花の種などに も拡げてはと思っている。第2次の「ノアの箱船」に相応しい乗組員たちを紹介して欲しい。
国際宇宙ステーションに10日間滞在していた酵母菌は、ロシアの宇宙船ソユーズで2005年10月11日に地球に帰ってきた。この「宇宙を見てきた酵母菌」で の新酒は、来年の大河ドラマ「功名が辻」の放映に合わせて、高知の各酒造会社から「土佐宇宙酒 ○○○」のラベルで発売される予定である。日本酒の需 要が低迷している時、県内の酒造会社が一丸となって、この宇宙酒を切掛けにして、淡麗・辛口の土佐の日本酒の良さを日本中、世界中に伝えたいと考えた のである。
このプロジェクトの発端となった「高知県宇宙利用推進研究会(てんくろうの会)」はまだまだ沢山の夢を持ち合わせている。そして、さらに楽しい夢を 募集中である。