| 独立行政法人 科学技術振興機構による 地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業です。 |
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世界には天災、飢餓、戦乱などで今もなお感染症に苦しむ人々が多数います。難民キャンプなどでは冷蔵庫で保存し、滅菌された注射器で投与する 方法さえ困難です。これを解決するために経口ワクチンが考えられます。RSP事業ではこの研究の他に、世界的に問題となっている「アユなどの冷 水病」に対するワクチンの研究を育成支援し、近い将来に実用化されます。こちらも、魚や鶏に1匹づつ注射するのではなく、エサに混ぜて投与しま す。今回この経口ワクチンを安く作る方法として海藻の光合成による方法を提案します。事業化へのご参加をお待ちしています。
藻をタンパク質生産の場とした食餌ワクチンの開発 高知工科大学 教授 榎本恵一 教授 大濱 武 (物質・環境システム工学科)
1.食餌ワクチンとは ジェンナーによる種痘から始まって、ワクチンはウイルスや細菌による感染症の予防に多大の効果をあげてきました。しかし、世界を見渡すと環境破壊、 飢餓、戦乱のため、今もなお感染症に苦しんでいる人々が開発途上国に多数います。これらの地域では、冷蔵庫で保存し、滅菌された注射器で投与する通 常のワクチンを使うことは困難です。このような状況を解決するため考え出されたのが食餌ワクチンです。このワクチンでは、病原体の抗原となるタンパ ク質部分に相当する遺伝子を人工的に作り、これを野菜などの食用植物に導入して、その細胞のなかで抗原タンパク質を合成させます。このようにすれば、 その植物を食物として口から摂取することにより、ワクチンとして作用することが期待できます。食餌ワクチンは、人間のみならず、注射でワクチンを投 与することが困難なニワトリや養殖魚などの感染防御にも役立つと考えられます。
2.なぜ藻を使うのか 食餌ワクチンを作るには、遺伝子を組み込んだ植物を田や畑で栽培しなければなりません。しかし生育に時間がかかることや遺伝子組換え植物を野外で 栽培することにも困難があります。しかし、藻は無機栄養塩の補給だけで短期間で増殖するため生産コストも低く、屋外だけでなく屋内でも量産すること ができます。実際に研究に使う藻は淡水に生息するクラミドモナスという単細胞の緑藻です。わずか1日で細胞数が2.5倍になります。また、古くから遺 伝学の材料として用いられており、その全DNA配列が決定されているため、遺伝子組換えにも適した生物です。
3.クラミドモナスへの外来遺伝子導入
細胞の中で遺伝子を持つものが3つあります。それらは核、ミトコンドリア、葉緑体です。これらの遺伝子に外来の遺伝子を組み込めば、それぞれ細胞質、 ミトコンドリア、葉緑体の中で外来タンパク質が作られる可能性があります。クラミドモナスでは葉緑体が細胞体積の7割を占めるため、葉緑体に遺伝子 を導入することが外来タンパク質を効率よく作らせるのに有利であると考えられます。
クラミドモナスの写真
(細胞の大きさは100分の1mm程度)
ここでは外来遺伝子としてコレラ毒素Bサブユニットの遺伝子を合成し、それに遺伝子が導入されたことを示す目印となるようにスペクチノマイシンと いう抗生物質に耐性となる遺伝子を付け加えました。この遺伝子を小さな金粒子に付着させて高圧ガスを用いて細胞内に打ち込む方法を取りました。導入 された遺伝子の一部は、確率は低いのですが、葉緑体のゲノムDNAの中に取り込まれます。これはその細胞がスペクチノマイシンに耐性になることで確 かめられました。4.ワクチン用抗原の作成 ワクチン用の抗原としてスギ花粉症の抗原を作成しました。これは花粉症の予防ではなく、減感作療法という治療に使うことが想定されています。しかし、 作成の原理はワクチン作成の場合と同じです。スギ花粉のアレルゲンであるタンパク質 Cry j から免疫細胞の一つであるT細胞と反応する抗原部位を複 数個選び出し、それらに相当する遺伝子を作りました。そしてこれらの遺伝子をつなぎ合わせたのです。どの抗原と反応するかは個人によって異なるため、 できるだけ多くの種類の抗原を組み合わせることが効力を増すのに必要と考えられます。
このようにして作成した抗原遺伝子を大腸菌に導入したところ、スギ花粉抗原を含むタンパク質が細胞内で合成されました。この研究の手法を利用すれば さまざまな種類のワクチンを作ることができると考えられます。
「ワクチンとして利用できる抗原の遺伝子を人工的に合成し、藻に導入し、タンパク質を作らせる。」簡単なように聞こえますが、実用的な技術となるに はまだまだ越えなければならない障害もあります。今後はこれらの障害を一つ一つクリアーしてゆくことが大切と考えています。