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強い発光性を示す独特の新しい波長変換型“固体発光性色素”を開発しました。研究者の創意に基づく分子設計法により、 色素の吸収及び発光波長、溶剤や樹脂に対する溶解性などの調整が可能となり、ニーズに合わせて任意の発光色に変換する材料を作れるようになりました。 例えば、この“固体発光性色素”を分散させた透明プラスチックフィルムを通して日光を植物に照射すると、光合成の促進や成長制御に有効なことが分かりました。 また、農業分野以外にも幅広い実用化が可能です。
波長選択光吸収・発光性色素の創出と農園芸用フィルム開発への応用
高知大学理学部 教授 吉田勝平 高知大学農学部 教授 北野雅治
農園芸にとって、植物の生長、発芽、開花などをコントロールすることができれば極めて好都合です。植物の生育段階に及ぼす環境の影響は大きく、 様々な環境要素の中で光環境は特に重要です。太陽光の波長分布を人為的に調整して植物の生長を制御する“農園芸用光調整フィルムについては“光吸収型フィルム” によって一定の実績をあげています。しかし“光吸収型フィルム”は、フィルムに組み込まれた色素の光吸収効果で可視光の波長分布を調整するもので、 太陽光の光強度を弱めてしまうという本質的な欠点をもっています。これに対して蛍光色素を組み込んだ“発光型フィルム”の場合には、 組み込まれた蛍光色素が植物の生長制御にあまり関係しない波長域の光を吸収し有効な波長に変換して発光するので、生長制御に効果のある波長域の光を強める光調整が可能となります。
“発光型農業用光調整フィルム”の作製
発光型光調整フィルムの利用法として先ず、光合成の促進、植物の光形態形成反応の調節による生長制御や着色制御、病虫害軽減などが考えられます。 個々の農園芸作物の種類に応じて、最適な光環境を設定すれば、より大きな効果を引き出すことができます。今回の試験研究では、開発した“固体発光性色素”の中から、 特に植物の光合成や光形態形成反応に深く関与している波長域の光を放射できるものとして青色蛍光性色素と赤色蛍光性色素を選びました。蛍光フィルムの試作は、 東洋ケミカル(株)との共同研究より行いました。 右の写真はエチレン-酢酸ビニル共重合系透明プラスチックフィルムに“固体発光性色素”を溶解法で組み込んで作製した “蛍光フィルム”です。左側の写真は、蛍光灯の下で撮影したもので、右側の写真は暗室の中でブラックライト(365nmの紫外線)を3種の “蛍光フィルム”に照射した時の発光の様子を示しています。この写真から、“固体発光性色素”を組み込んだ“蛍光フィルム” がほとんど目に見えない紫外線を吸収して青色や赤色の光に波長変換して発光している様子が分かります。
“発光型農業用光調整フィルム”の効果に関する栽培実証試験
分光放射計による測定により“赤色蛍光フィルム”は波長域がほぼ450nm〜550nm (青〜緑) の光を吸収して、 光合成の作用スペクトルと光形態形成に関わるフィトクローム(Pr型)の吸収スペクトルの極大吸収波長域である600nm〜700nm(赤色)の光を発していることを確認しました。 一方“青色蛍光フィルム”は、色素発現に関与する紫外域およびフィトクローム(Pr型およびPfr型)の吸収スペクトルの短波長側の極大吸収波長域で ある350nm〜450nm(紫外〜紫色)の光を吸収して、波長域450nm〜550nm(青〜緑色)の蛍光を発していることを確認しました。
そこで、この2種類の“蛍光フィルム”の農作物への効果として、物質生産(光合成,収穫対象器官の生長)、光形態形成(伸長生長,発芽)および色素発現への効果を調べ、 得られた結果の一部を紹介します。(1)物質生産(光合成,収穫対象器官の生長)への効果
上の写真はファイトトロンガラス室 (自然光)において、“赤色蛍光フィルム”“青色蛍光フィルム”および蛍光色素無添加の “透明フィルム”の下でハツカダイコンを栽培した実証試験の結果を撮影したものです。“青色蛍光フィルム”下では葉柄の伸長が促進され、徒長の傾向が認められました。 葉柄を含む葉の総乾物重は、蛍光色素フィルム下で増加する傾向がみられたが、青色と赤色蛍光フィルム間で有意差は認められませんでした。 したがって、光合成に有効な葉身の面積は“赤色蛍光フィルム”下で広くなることが推察されたのです。可食部の肥大生長は、“赤色蛍光フィルム”下で著しく促進され、 新鮮重と乾物重は“青色蛍光フィルム”や“透明フィルム”使用の場合と比較すると1.7倍以上になりました。
(2)光形態形成(伸長生長および発芽)への効果
光形態形成への効果を調べるために、難発芽性が問題となっている花卉(ブルースター)の種子発芽への効果を調べました。播種後の発芽率の経時変化を左下図に示しています。 “赤色蛍光フィルム”下では発芽が促進されて、播種後2週間で発芽率はほぼ100%に達しましたが、“青色蛍光フィルム”下では発芽は抑制されて、 播種2週間後の発芽率は約70%にとどまりました。このように “赤色蛍光フィルム”と“青色蛍光フィルム”の光形態形成反応に及ぼす影響が明確に示されたのです。
今回の農園芸作物栽培における実証試験は、試作した蛍光フィルムの完成時期が冬季であったことと長期使用には耐久性に問題があったことから、 日照時間および日射量の少ない冬季での短期間試験に限られましたが、蛍光フィルムの物質生産および光形態形成に及ぼす効果が実証できました。 今後、蛍光フィルムの機能や耐久性を改善し、多様な作物を対象に、日照量の多い春季から秋期にわたる長期間の実証試験を実施し、信頼性のある、”農業用光調製フィルム” を完成させます。