大学研究室紹介

高知工科大学
物質・環境システム工学科

 教授 谷脇 雅文

谷脇氏 TEL/0887-57-2504
FAX/0887-57-2520


 この4月から高知工科大学は10年目に入ります。私は開学時から物質・環境システム工学科に所属しています。この学科では、地球環境との調和を大前提にして、 金属材料、無機セラミックス材料、高分子材料、生物由来材料など、材料・物質のありとあらゆるものを対象にしていると言えるでしょう。
 その中で私の研究室は、金属、半導体、超伝導体、セラミックスなどの固体材料を幅広く研究対象としています。 もともと学部・大学院時代は金属工学(私が学科進学したときは冶金学科といいました)を専門としていましたが、その後北大の電子工学科に17年間所属したことで、 研究領域、研究対象ともに拡げることができました。同時に、ここで透過電子顕微鏡をはじめとして多様な実験手法を身につけることができたのは幸せでした。
工科大ではこの蓄積を武器に、新田助手(本学一期生)、学生・院生達とともに、鋼、セラミックス、環境半導体、光触媒半導体、ナノチューブなどいろいろ取り組んでいますが、 これらの研究では今のところトップレベルに到達したとは正直言えません。しかし化合物半導体に関しては独創性ある研究を進めています。以下これを紹介します。

 

 下の写真は、イオン照射した化合物半導体ガリウムアンチモン(GaSb)表面の走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡による断面写真です。 大変不思議な構造が形成されています。およそ直径50ナノメートル(ナノメートル=1メートルの10億分の1)、 深さ250ナノメートルの微細でアスペクト比の高い穴(以下セルとよびます)が高密度に形成されています。セルどうしを隔てる壁の厚さはわずかに5〜10ナノメートルです。 その後の研究により、このようなセルは、イオンで剥ぎ取られて(スパッタ)できたものではなく、実は固体内の点欠陥の挙動によってできたものであることが明らかになりました。

 
断面写真
半導体表面に形成されたナノ構造。(私たちの研究室で発見された)
これを規則正しく作ることが課題です。
透過型電子顕微鏡
セル状構造を見つけた透過型電子顕微鏡

 高速のイオンが照射されると固体内の原子と衝突します。はじきとばされた原子は次々と衝突をくりかえし、最終的には結晶の中に、原子空孔 (原子が空の格子点)と同数の格子間原子(本来原子のいない空隙に原子がはいったもの)が形成されます。これらの点欠陥(原子空孔、格子間原子) がガリウムアンチモンの中で勝手に動いた結果、写真のような不思議な構造ができるのです。
 私たちが見出したこのような現象-原子や分子が勝手に動いて (もちろん物理的な法則にはしたがっています)、その結果ある程度規則性のある構造ができることは、自己組織化とか自己秩序化と呼ばれて、 実は最近ナノテクノロジーの分野で大変注目されています。なぜかといいますと、これまでの微細化技術というのはトップダウン方式でした。 フォトリソグラフィー等を利用して微細なパターンを基板上に形作る方法です。この方法は規則性ということでは申し分ないのですが、 微細化という点で近年限界があらわれてきました。ところが自己組織化を利用すると微細化に非常に有利であるため、 量子ドットの作製などで最近注目されているわけです。
 私たちがこの現象を見出したとき、構造が微細なことからナノテクノロジーに 応用できそうだと思いましたが、不規則さをなくすことが課題となりました。このことでしばらく悩みましたが、 収束イオンビーム(FIB)の精度がきわめて高い(0.5ナノメートル)ことを知り、これを使って最初にセルの“種”を規則正しく作り、 その後通常のイオン照射をしてやれば規則的なナノセル構造ができるのではないかと考えました。後で知ったのですが、この考え方は実は、 トップダウン・ボトムアップ併用方式といって、半導体ナノ技術で、規則的な微細構造をつくる方法としてすでに一般的になっていたのでした。
 情報を集めるのがあまり得意でないため、遅れてしまいましたが、現在、この方法でナノセルを自由にあやつろうと研究をすすめています。 ただ、この研究に適したFIBが世の中にまだできていないので苦労しています。