大学研究室紹介

高知女子大学
生活科学部 健康栄養学科

 教授 川村 美笑子
農学博士(東北大学)

谷脇氏 TEL/FAX:088-873-2703
E-mail:miekonut@cc.kochi-wu.ac.jp


 栄養学とは、ヒトの成育、健康または疾病において、食物(栄養素)の摂取、補給およびこれに伴う生体の内部環境、 代謝の変化がどのような役割をしているか、また、生体に生活環境が及ぼす影響等、それらの「しくみ」を理解し、成長、 健康の増進、疾患の予防または治療にいかなる栄養学的対策(システム)が必要かを明らかにする学問であり、 調理学とは異なるものです。これまで、生活科学、医学、薬学、農学の分野に身をおきながら、 「カゴの中で飼育された白ねずみ(人間)の栄養学」でなく、「生活している人間のための栄養学」を志向、 探求してきましたが、平成10年4月から高知女子大学に所属しています。全国から入学してくる学生、 地域における人間の食や健康に関する問題意識をもち入学してくる社会人の大学院生(修士・博士)と共に、 実験小動物を用いた基礎的研究も行いながら、人間栄養学の視点に立った研究を進めています。
 以下に研究の一端を紹介します。

 
1.食環境は脳機能にどのような変化を与えるのか
 脳への栄養物質の取り込みは血液脳関門(blood brain barrier, 以下BBB)を通じて行われます。 BBBの特殊機能によって脳機能は正常に保たれていますが、この関門が損傷されれば脳に不変の環境を作り出すことは 困難になり、その機能の低下につながります。生体にとって必須の微量栄養素であるビタミンやミネラルの欠乏といった 食事性栄養因子が、BBBの状態変化を介して脳機能にまで影響を与えることを明らかにしました。 注意欠陥多動性障害(ADHD)と脳機能を中心とした栄養素の役割に関する国際共同研究を進めていますが、 ADHDの子どもたちはそうでないグループに比べて、脳の大切な栄養や小腸微絨毛の透過性に違いがあることが わかってきています。ストレスの大きい社会で問われている「こころと栄養」、 高齢社会において大きな問題となっている「脳疾患」などの課題への予知・予防・修復に関する基礎的知見を提供するものと 考えています。
2.経口的に食物摂取することの栄養生理学的意義とは
 人はなぜ経口的に食物を摂らなければならないのか。小腸粘膜の構造と機能に食物摂取がいかなる栄養生理学的意義を もっているのか、また経腸ということが代謝にどのような影響をもつのかを明らかにしました。 すなわち、血液の中に栄養成分を直に取ればいいというものではなく、消化管を使うこと、消化管に物理的刺激があり、 消化された栄養素が小腸粘膜を通過することで、生体そのものの健康が保持されることを示し、 この結果はアメリカの宇宙食の考え方にも採用されました。小腸を経ない、あるいは小腸をほとんど使用しないで 栄養を摂取する方法(静脈栄養や鼻空チューブ栄養等)では、小腸粘膜の形態や機能に異常が起きることも分かりました。 今日、臨床・介護の場において、経口的に栄養を摂取することの大切さが説かれだしたのは、このような理由にもよるのです。
3.微量元素の代謝に対する栄養条件の修飾
 微量元素の化学形態によって生理作用の発現のしかたが異なることを、20年前、 ハーバード大学医学部で診断薬の代謝を追究している時に明らかにしましたが、 当時は生体微量元素の研究が栄養の面から開始されたばかりでした。その後、 体内での化学形態が栄養条件によっても影響されることを、原子価の異なる遷移元素を用いて明らかにし、 生体の腫瘍部位に集積する特性を持つものは診断への応用が国内外で展開されました。 食品に含まれる大豆たんぱく質、各種ペプチド、食物繊維等と微量元素の存在形態や有効性、 微量元素の共存や化学形態と生活習慣病との関りについても、「健康の保持・増進並びに疾病予防食の構築を目指した 食品の機能評価」を視野にいれて実験動物を用いた研究を進めてきています。
 室戸海洋深層水を用いて、従来の研究・開発には薄かった「健康・栄養の視点」を主軸に、 高知県・民間企業と連携し、海洋深層水の産業利用に新たな可能性を開く「粉末化」を2005年に世界で初めて成功させ、 トレハロースによる粉末の特徴についても、栄養生理学的な観点から実用化の基礎的知見を提供しました。 これまでの海洋深層水とは異なり、主要元素のMgやCaの成分の量・比率の恒常的な安定化を計ることができ、 ミネラル液及び粉末の成分表示も可能となり、国際的に通用する安全性評価試験でも認可をえました。 消費者より求められている「安全・安心」、「トレーサビリティ」、「成分表示」の全てに答えうるものです。 ミネラルの生理作用や機能性を考慮した、嚥下食品、発酵食品、調味料、嗜好品、医薬品、健康食品、サプリメント、 化粧品、肥料、家畜飼料、葉面散布剤等の開発研究が展開されていくことを期待しています。
実験風景
実験装置
4.地域栄養学の志向
 子どもから高齢者まで、ライフステージを基本に、食や健康の課題を栄養保健学・栄養生理学の視点から地域の特性を 踏まえて学問的に捉え直し、その成果を社会システムの中に位置づける作業とともに地域・家庭・学校・行政・産業等に 還元すべく研究を続けています。