独立行政法人 科学技術振興機構による
地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業です。
RSP事業だより

 本県のショウガ生産量は全国比約50%を占めており、本県は全国一のショウガ産地であります。 ショウガは特有の香りと辛味を呈し、生理活性を有することから古来より漢方薬として利用されていますが、 ショウガを利用した加工食品としては紅生姜漬、おろしショウガ、生姜飴、生姜湯などがあるものの比較的限定されています。 今回、ショウガの新しい活用方法として酒類を中心にした発酵飲食品の開発を試み、酒類製造の可能性が示されました。


ショウガを利用した発酵食品製造技術の開発
高知工科大学 教授 松元 信也


 ショウガは独特の香りと辛味を呈し、加えて胃の不調や風邪などに効きめを発揮したり、 殺菌作用があるなどの諸々の生物活性を有することが知られています。それ故、ショウガは古来から寿司などと共に食されたり、 漢方薬などとして利用されております。一方で、ショウガの新たな活用展開法の開拓が望まれており、 私共はその一つとして酒類に代表される醗酵飲食品への活用を意図しました。


酵母の発酵特性に及ぼすショウガ添加の影響


 ショウガが細菌に対する殺菌作用を有することは報告されておりますが、 酒類醸造の主役を演じる酵母にどのような作用を示すかは不明です。 そこで、醗酵系に種々の量のショウガを添加した場合の醗酵特性を調べました。 図-1はオレンジ果汁に種々の量のショウガ(モロミ当り0.4,2,4,8%(w/v))及び酵母を加えて28℃で醗酵させた場合の炭酸ガス発生経過を示したものです。 図から判りますように、ショウガを添加しますと無添加のコントロールの場合に比べ、早くから炭酸ガスの発生がみられ、 ショウガには酵母の醗酵を促進する作用のあることがうかがえます。結果として、ショウガを添加して醗酵させますと、 醗酵に要する時間はコントロールの約半分で良いことがわかります。そして、このような醗酵促進効果は、 清酒醸造系などの各種酒類醸造系でも程度の差はあるものの同様に認められること、添加するショウガの加工形態、 すなはち摩り下ろした微細なショウガでも、搾汁液でも同様に認められること、更には、添加するショウガ搾汁液などを、 例えば90℃あるいは120℃で10分間程度加熱処理しても同様な効果が得られること、また、本効果はショウガの品種に依らない 可能性が高いことなどが判りました。
 以上の酵母の醗酵特性に及ぼすショウガの影響に関する種々の検討結果から、 ショウガの醗酵系への添加は酒類醸造における醗酵時間の短縮という実用的なメリットをもたらすことが明らかになりました。 更に、ショウガの添加は、ショウガの持つ本来の香味や生理活性作用を有する酒類の製造を可能にするばかりではなく、 同時に、ショウガが酵母の代謝活性に影響を及ぼすことに起因する香味成分の生成変化による酒質改質効果も有すると言えます。
 なお、酵母に対する醗酵促進をはじめとする微生物活性に及ぼすショウガの作用機構などについては、現在、精査中です。


図1

各種酒類醸造系にショウガを添加して発酵させた場合の発酵特性と香味特性の評価解析


図2


  グレープ果汁を主原料とするワイン醸造系に摩り下ろし器で微細化した種々の量 (モロミ当り0.5〜23%)のショウガを加えて28℃で醗酵させました。その結果、 何れの添加量の場合も醗酵は促進される傾向にあることが判りました。図-2はそれらの内、 ショウガ添加量が8,15,23%と多い場合の炭酸ガス発生経過を無添加のコントロールの場合と比較して示したものです。 添加量が23%と極端に多い場合、最初の24時間ではコントロールよりも少ない発生量、 すなはち醗酵が抑制される傾向にありましたが、その後、醗酵は急激に回復、48時間時点ではコントロールはもちろん、 他の添加量の場合を凌ぐ最高の成績を示しました。この場合のショウガ添加による醗酵時間の短縮率は約30%でした。 得られました醗酵終了液の香味特性はショウガの添加量が比較的少ないモロミ当り0.5〜2%のものはほのかなショウガの香りを呈し、 多量添加した場合はショウガの香味的特性が強く現れておりました。また、添加量を極端に多くした23%の醗酵終了モロミを 単式蒸留器で蒸留した溜液の品質はショウガのほのかな香りを呈し、蒸留酒として面白いものでした。

 大麦麦芽を主原料とするビール醸造系にショウガ搾汁液を加えて15℃で 醗酵させました。その結果、この系でもショウガを添加した場合、顕著な醗酵促進効果が認められ、 醗酵所要時間を約20%短縮可能であることが判りました。得られた醗酵終了液はショウガ独特の香味特性を呈していました。

 米と米麹を主原料とする清酒醸造系に摩り下ろし器で微細化したショウガを加えて (添加量:モロミ当り0.4〜10.8%)、15℃で12日間醗酵させました。この場合も無添加のコントロールに比べて ショウガを添加すると醗酵速度が向上する傾向が示され、醗酵所要時間をコントロールの約20%短縮し得るとの結果を得ました。 醗酵終了液の品質を官能評価したところ、ショウガ添加0.4%では僅かにショウガの香りがする程度でしたが、 2.7%ではほのかなショウガの香味を呈し、10.8%のものは比較的強いショウガの香味を呈しました。

 以上、幾つかの実験例を挙げて述べましたようにショウガを醗酵原料の一部として使用しますと醗酵促進効果が得られるばかりでなく、 品質的にもショウガに起因する好ましい風味と生理機能の付加された新奇な酒類製造の可能性が示されました。
 今後も、ショウガの有する生物活性の基礎と応用に関する研究開発に注力し、新奇な活用法の提案に繋げていきたいと思っております。