独立行政法人 科学技術振興機構による
地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業です。
RSP事業だより

 高知県の伝統的な産業であり、かつ主要産業である製紙産業から排出される製紙スラッジは、月当たり約610トンあります。 この製紙スラッジの約27%は固形燃料として再利用されていますが、残りはセメント工場などで焼却処分されています。 製紙スラッジの大部分は、製紙工場の排水から回収されたパルプ繊維くずです。 私たちは製紙スラッジを単に燃やすだけでは“もったいない”と考え、製紙スラッジから生分解性プラスチックの原料であるL-乳酸を安価に製造し、 かつその廃液をメタン発酵処理することにより無害化するとともに、燃料となるメタンガスを得るプロセスの可能性を実証しました。


製紙スラッジの高速L-乳酸発酵およびメタン発酵複合プロセスの開発
高知工業高等専門学校 助教授 土居 俊房

1.はじめに

 石油や石炭などの大量消費は大気中の二酸化炭素の濃度を高め、地球温暖化などの環境問題を引き起こしています。 また、現状のまま石油を消費していくと数十年後にはなくなると言われており、これらの化石資源枯渇や環境問題を解決する策の一つとして、 水と二酸化炭素と太陽エネルギーから作られるバイオマス資源を原料としたエネルギーやプラスチックが注目されています。
 高知県の伝統的な産業であり、かつ主要産業である製紙産業から排出される製紙スラッジは、月当たり約610トン(水分を含む)あります。 この製紙スラッジの約27%は固形燃料として再利用されていますが、残りはセメント工場などで焼却処分されています。 製紙スラッジの大部分は、製紙工場の排水から回収されたパルプ繊維くずです。 この製紙スラッジを乾燥するとその約88wt%はセルロースであり、セルロースは砂糖(グルコース)が多数つながったものです。 そこで、私たちは製紙スラッジが“りっぱなバイオマス資源”であり、単に燃やすだけでは“もったいない”と考え、 製紙スラッジから生分解性プラスチックの原料であるL-乳酸を安価に製造し、かつその廃液をメタン発酵処理することにより無害化するとともに、 燃料となるメタンガスを得るプロセスの開発に取り組んでいます。
 L-乳酸から作られるプラスチック、ポリ乳酸は使用した後、土の中に埋めておくと、土の中の微生物の力で自然に分解され水と二酸化炭素になります。 現在、ポリ乳酸の大部分は米国でサトウキビから製造されています。サトウキビは食料や家畜の飼料にも利用できるため高価であり、 ポリ乳酸の市場価格がなかなか下がりません。我が国ではサツマイモ、東南アジアのキャッサバ、生ゴミのでんぷん、 糖からL-乳酸を製造する研究が行われています。製紙スラッジからL-乳酸を生産する研究はほとんどおこなわれていません。 私たちが開発しているプロセスの特徴は、原料に製紙スラッジ、乳酸菌培地に豆腐製造廃液を利用し、 産業廃棄物から酵素(セルラーゼ)と乳酸菌による同時糖化発酵法によりL-乳酸を製造することです。 同時糖化発酵は、一つの発酵槽でセルラーゼによるセルロースからグルコースへの糖化反応と、 乳酸菌によるグルコースからL-乳酸への発酵を同時に行うものです。これは糖化反応の速度を高める特徴があります。
 ここでは、1)製紙スラッジと豆腐製造廃液からのL-乳酸生成、2)製紙スラッジのメタン発酵に的をしぼり、これまでに得られた研究成果を紹介します。

2.製紙スラッジと豆腐製造廃液からのL-乳酸生成

 次の4つのケースについて回分実験を行い、製紙スラッジと豆腐製造廃液からL-乳酸が生成できることを実証し、 製紙スラッジと豆腐製造廃の有効性を確認しました。1)合成培地(酵母エキス、ペプトン他)とグルコースから乳酸菌によるL-乳酸の生成(YP+Glu.)、 2)合成培地とセルロースから同時糖化発酵によるL-乳酸の生成(YP+C)、3)合成培地と製紙スラッジから同時糖化発酵によるL-乳酸の生成(YP+PS)、 4)豆腐製造廃液とセルロースから同時糖化発酵によるL-乳酸の生成(SWF+C)。
 図1に培地中のL-乳酸濃度の経時変化を示します。合成培地とグルコースによる乳酸発酵は、培養3日で反応はほぼ終了し、 約45g/LのL-乳酸が生成している。 L-乳酸生成速度は、 合成培地とグルコースによる乳酸発酵>合成培地と製紙スラッジの同時糖化発酵>豆腐製造廃液と 製紙スラッジの同時糖化発酵の順で小さくなっています。この結果から豆腐製造廃液を使用すると、L-乳酸の生成反応を阻害することがわかりました。
 図2に48h培養後のL-乳酸収率(糖化可能なセルロース質量を基準)を示します。セルロース(試薬純度)と製紙スラッジを比較すると、 収率の差は約2%程度で両者に有意な差はありません。このことから製紙スラッジが純度の高いセルロース資源であることが実証されました。 また、豆腐製造廃液と合成培地を比較すると、L-乳酸の収率の差は約10%ありますが、実用上は問題になりません。 このことから豆腐製造廃液が同時糖化発酵の培地として利用可能なことがわかりました。

 以上の成果から製紙スラッジと豆腐製造廃液からL-乳酸が生成できることを実証し、高価な合成培地が不要で、 かつ原料は廃棄物を利用することにより安価にL-乳酸を生産できる可能性を示しました。

3.製紙スラッジのメタン発酵

 ビール工場の廃水処理施設から入手したグラニュール汚泥を用いて、製紙スラッジの回分メタン発酵実験を行いました。 図3にメタンガス発生量を示します。発酵初期から14日間は比較的メタンガス発生速度が速いが、その後徐々に遅くなっている。 汚泥(Blank)からのメタンガス発生量を差し引いた賞味のメタンガス量は、30日間で乾燥製紙スラッジ1kg当たり約187NLである。 これは製紙スラッジ1トン(水分80wt%)当たりに換算すると約37.4Nm3である。図4にメタン発酵ガスの組成を示す。 発酵初期の10日間はメタンガス濃度は約60vol%であり、その後約55vol%となっている。 なお、メタンガス濃度が60vol%であればボイラーで燃焼可能である。これらの成果から製紙スラッジの嫌気性メタン発酵処理が可能であり、 かつメタンガスの回収も可能であることが示された。

【謝辞】本研究を実施するにあたり、製紙スラッジをご提供頂いた高知特殊紙(株)、セルラーゼをご提供頂いたエッチビーアイ(株)、 グラニュール汚泥をご提供頂いたアサヒビール(株)に心より感謝申し上げます。


PLATFORM No.229 2006年10月号