| 独立行政法人 科学技術振興機構による 地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業の平成17年度育成試験より。 |
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パンや清酒の製造に欠かせない酵母は、発酵食品が持つ味や香りを醸し出すために重要な役割を担っています。 新しい野生酵母を自然界から分離して、その発酵特性に適した利用法を検討し、 従来にない美味しさや香りを持つ新たな発酵食品を造り出すことも可能です。 そこで、黒潮圏で育まれた強い発酵力と新しい発酵特性持つ野生酵母を分離し、清酒醸造や製パンに利用できるかどうかを検討しました。 そして、高知県工業技術センターやベーカリー・ペロリ、小田象製粉M(倉敷市)との産学官による共同研究によって、 野生酵母の発酵特性に適した製パン法を検討し、官能試験で高い評価が得られるパンを生産することができました。
黒潮圏に生息する有用酵母の探索と新たな発酵食品の開発
〜清酒醸造や製パンに適した野生酵母の分離とその発酵特性〜高知大学農学部 教授 永田 信治
高知県内の海洋試料(高知大学海洋生物教育研究センター、浦ノ内湾、室戸沖の深海底泥や深層水)や 植物試料(高知県立牧野植物園、高知県立のいち動物公園)の他に、畑や圃場 酒蔵、製菓工場などの様々な環境から耐糖性や耐アルコール性、 耐塩性に注目して、野生酵母の単離を行いました。まず最初の酵母の選択は、栄養培地で清酒酵母よりもブドウ糖の発酵力に優るものを選び、 清酒小仕込み試験での発酵力と香気成分能の分析、ブドウ糖・麦芽糖・ショ糖を炭素源とした場合の生育と発酵力、 さらに生地膨脹力試験を含む製パン試験と焼成した食パンの官能試験を行いました。このようにして発酵力と香気成分生成能が異なる野生酵母を選択し、 野生酵母の適性を利用した発酵工程と商品の開発を試みました。 発酵力の顕著な野生酵母について、ブドウ糖・麦芽糖・ショ糖の発酵力を調べると、清酒酵母よりも麦芽糖の発酵力が弱い酵母と、 パン酵母よりも麦芽糖の発酵力が強い野生酵母が見つかりました。麦芽糖の代謝活性が弱く、 清酒酵母に性質が近いと思われた「やぶつばき酵母」や「くろがねもち酵母」は、直捏法でも中種法でも室温で10〜16時間の一次発酵を行い、 二次発酵の時間も長く設定することで、野生酵母の特徴を生かした風味を持つパンが生産できました。
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一方、麦芽糖の発酵力が顕著な「くちなし酵母」と「まてばしい酵母」は、市販の生イーストと比較して、 一次発酵の初期で生地の膨張が遅れる傾向がありました。しかし、中種法における4時間の一次発酵でも、生イーストと同等の発酵力を示し、 「くちなし酵母」では果実様の香りが顕著に高いことが確かめられました。一次発酵の時間を長くすると、 このような野生酵母の特徴がより顕著に現れることもわかりました。 しかし、パンの製造では、ホイロでの二次発酵の後に200℃以上の温度で焼成を行うため、その特徴的な香気成分の大部分を失ってしまいます。 そこで、できるだけ香りを維持するために、添加物を利用したり製パン法を工夫したりするなど、工夫の余地が残っています。 さらに、二次発酵も微妙に遅れる傾向があり、直捏法で製パンする場合の弱点になるかもしれません。 また、これがショ糖存在下での酵母のインベルターゼ活性による影響であるとすれば、最初からショ糖を添加する直捏法や 多量のショ糖を用いる菓子パンの製造時には、発酵工程の工夫が必要になってきます。
さて、小麦粉を短時間で発酵させる製パンでは、大量の酵母を必要とするため、酵母の培養法、供給法、保存法の検討が重要になります。 特に、製造するパンの種類と数が限られる一店舗のベーカリーの生産量に対応できる酵母と、 工場レベルの大量生産に対応できる酵母を安価で継続的に供給する方法を検討しなければなりません。 現在、南国市のべーカリー・ペロリでは店頭で野生酵母の培養を行い、一晩低温で培養液を放置して酵母を沈殿させて、 可能な限りの培地上清を除いて製パンに用いており、野生酵母の発酵特性に適したレシピを検討して、パンの販売を行っています。 どうしても培養液がわずかに残る発酵種になるため、酵母菌体の保存状況や培養温度の変動によっても発酵種の状態が変化し、 培養液中の有機酸の影響を受けて酸味が増減するので、好みによっては官能試験での評価が違ってきます。 また、倉敷市の小田象製粉Mでは、大学で10〜30L程度の大量培養をしたり、外部委託によって150Lの大量培養した野生酵母の集菌体を用いて、 製パン時の野生酵母の評価を行いました。市販の生イーストは圧搾することで水分を除去していますが、 一般に3〜4週間の低温保存によって発酵力を失います。野生酵母は水分を充分除いていない集菌体で保存しましたが、 3〜4週間はその発酵力を失いませんでした。さらに、パン生地に添加して低温で一晩保存したり、15℃前後でゆっくり一次発酵させることも可能であり、 市販の生イーストと同等の実用性を持っていることも確かめました。 最後に、これらの野生酵母を用いて生産した食パンと市販の生イーストを用いて生産した食パンを比較した官能試験結果を示しました。 味、香り、食感のすべての点で、野生酵母を用いて製造した食パンが高く評価されています。 麦芽糖発酵力の弱い「くろがねもち酵母」や「やぶつばき酵母」では、成人と高校生の間で食べ物の好みの差が反映され、 製パン工程の違いや食パンの出来具合が評価に変化を与えました。一方、発酵力が顕著な「くちなし酵母」と「まてばしい酵母」は、 世代関係なく高く評価され、特に「まてばしい酵母」が顕著に好まれました。
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まてばしい酵母、くちなし酵母、生イースト(パン酵母)で作った食パンの評価
「左」(高知南高校国際科学科101名)、「中」(ビジネスフェア成人30名)、「右」(高知追手前高校自然科学科30名)、
(赤:1位評価5点、黄:2位評価3点)このように製パンに充分活用でき、市販の生イーストにも勝る野生酵母であると評価できました。 今後は野生酵母の培養法、供給法を検討すると共に、野生酵母の発酵力の増強、発酵力の温度依存性や各種の糖分解力の変化、 インベルターゼ活性や糖透過性の制御などの育種を行うことによって、野生酵母の実用的な改良が可能になるでしょう。 また、違った特性を持つ野生酵母を新たに探索して、活用分野をさらに広げていくことも可能となるでしょう。
PLATFORM No.232 2007年1月号