情報プラットフォーム 2009年8月号 No.263

design デザイン特集

デザイン特集3
サコダデザイン
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不便の中に潜むデザイン

愛媛県境にほど近い高知県北西部に位置する四万十市西土佐。高知市内からは車で約3時間。途中、山道をひたすら進んでいくと、山々の恵みをたっぷり受けた棚田が広がっていた。米を作りながらネットワークをつくっている高知のデザイナー、迫田司氏に話しを聞いた。迫田氏は熊本県出身。2004年、自らがデザインした山間米「枡袋」がグッドデザイン賞を受賞。

● 農林漁業ができる人間になりたい

東京の大手印刷会社でアートディレクターとして働いていた20代半ばのころ、初めてカヌーをしに四万十川を訪れた時、「3~4歳のころ熊本の実家の前を流れる川がとても綺麗だと思っていたが、四万十川支流の支流を見て、こんなにも綺麗な川があるのかとビックリしました。」そう思ってから高知にIターンするまで、2年間毎月通った。今年で高知に定住して17年目になる。「田舎にこそ、デザインの原点があり、切っても切れない関係です。」と迫田氏。
 農林漁業ができる人間になりたいと思って始めた田んぼ。お金は無いけど、自然の中のものを取り出し、デザインに変換する。まさに田んぼは迫田氏にとってライフワーク。田んぼをやることによって、身体の感覚がデザインにとても大切なことだと気がついた。いわば田んぼはデザインの基礎体力づくりの場なのだ。

● 周辺住民との関係

しかし、最初から田んぼにかかわっていたわけではない。高知に来た当初は、やはり県外から来たIターン者。表面的にはつきあってくれるが、本心は「よそ者」扱いだった。しかし、家を建ててからは「10年も居るし、家も建てた。あいつは逃げないだろう。」と周辺住民の信頼を獲得し、地元でも一番いい米のできる場所の棚田を貸してくれた。ただ、その棚田も5年間ほど放置され、誰も上がって来ないような棚田であっため、仲間達と一緒に整備し、7年前から米を作り始めた。
全国の子供から大人まで、年間延べ200人ほどが米作りに、この棚田までやってくる。「田んぼをやると人が集まってくる。そのことで地域が元気になることを実感しています。」実際お邪魔したとき、たまたま地元の小学生が田植えに参加していた。田植え前の棚田で泥まみれになりながらサッカーをしている姿を眺めていると、取材をしている自分がまるで、以前からここに住んでいたような感じに思えるのである。何か子供の頃の懐かしさを思い出す。

● 木賃ハウスで不便を楽しむ

棚田から300mほど離れた迫田氏の自宅下に、木賃ハウスという寝泊りできる場所がある。ここは電気もガスも水道もない。自分たちで作った米や野菜を自然のエネルギーで調理して食べる。わざわざ不便なことをするが、そこに潜むものに人の生き方のヒントがあると思う。農とデザイン・・・。一遍、何の繋がりもなさそうに思ったが、迫田氏はそれを巧みに変換し自らの形にしている。「地」に住み「地」を誇りに思う。そういう雰囲気をつくれる様な「地デザイナー」になりたいと迫田氏は言う。