事業戦略 ー策定の手引きー

III 「事業戦略」を策定してみよう

III-1 現在の姿

III-1-1 あなたの会社の事業概況は? <事業戦略シート 1.事業概況>

まずは、自らを振り返ってみましょう。あなたの会社の事業領域はどこでしょうか。

  • 今までのお客は誰か?(企業だけ?最終的には消費者?)
  • 提供する価値は製品だけ?世の中にどういった価値を提供しているのか?
  • 自社の製品や技術、サービスを買ってくれる市場(ライバルなども含む)の規模は減少している?もしくは維持している?拡大している?

また、あなたの会社の業績はどうでしょうか。

  • これまでの売上・収益の推移は?
  • 現在の事業において、利益が向上しない原因・背景は?経営上の問題点は?
  • 現在でも見えている来期の主要な課題は?

これらをすらすらと皆が説明できますか?説明できないならば、自らの会社のことを、この機会に見直してみましょう。現在の姿を振り返ることが「事業戦略」を策定する上で最も時間をかけることです。

この「現在の姿」は、客観的に誰かに見てもらうならば、病院のカルテと一緒ですし、主観的に自ら見る場合は、店舗などの棚卸のようなものです。

III-1-2 あなたの会社の特徴は何か? <事業戦略シート 2.マクロ・業界分析 3.ミクロ・自社分析>

外部環境や内部環境を考える前に、あなたの会社の「強み」を挙げてみましょう。
以下のような質問に答えてもらえると、それがあなたの会社の「強み」とも言えます。

この後の分析につながりますので、書き出してみましょう。

Q1.あなたの会社は、どんな製品・サービスを取扱い、どのようなお客様に提供していますか?

あなたの会社が一番お薦めしたい製品は何ですか?お客様は、他に色々ある中で、なぜその製品を買われますか?そのお客様はなぜ何度も買われるのでしょうか?また、お客様はどのようなことに困り、その製品を買って何が嬉しいのでしょうか?

Q2.あなたが考える会社の「一番」は何でしょうか?

製品の強み、人材、立地など、10個以上挙げられますか?

Q3.あなたの会社の競合企業(数個)はどこで、その企業の得意な点は何ですか?

その競合企業と比べて、あなたの会社が「差別化」している点を、競合企業ごとに3つあげられますか?

Q4.あなたの会社の業界において、従業員に必要な能力(スキル)は何ですか?

あなたの会社は、その能力を持合わせていますか?

Q5.あなたの会社が、この業界で不満、不安、脅威に思っていることは何ですか?

それに対してどのような対策をしていますか?

Q6.最近特に気になっているクレームは何ですか?

それは克服できましたか?

III-1-3 あなたの会社を取り巻く外部環境(機会と脅威)の分析 <事業戦略シート 2.マクロ・業界分析>

では、あなたの会社を取り巻く外部環境を分析してみましょう。
これを行うには、以下の PEST分析5Force分析という手法で、取り巻く市場やプレイヤー(競合や協力企業など)を整理するのが分かりやすいはずです。

■PEST(ペスト:政治・経済・社会・技術)によるマクロ的な外部環境を分析します。

P(Political)は、政治的要因によって、業界に大きな変化をもたらす可能性がある事項について洗い出します。例えば、政府・自治体の方針変更、業界に関連する法制度の改正・規制強化や緩和、税制、外交面などがあります。全て書き出すとぼやけてしまうので、あくまでもあなたの会社に関係する要因を抽出します。インターネットで検索するだけでも色々出てくるはずです。

E(Economical)は、経済的要因によって、業界に大きな変化をもたらす可能性がある事項について洗い出します。例えば、景気動向の影響や、物価変動による業界の価格変化、失業率、金利・為替動向、さらには補助金の政策等の要因を抽出します。

S(Social)は、社会的要因によって、業界に大きな変化をもたらす可能性がある事項について洗い出します。例えば、人口動態、トレンドや文化、教育制度、高知県民のライフスタイルの変化などで影響する要因を抽出します。

T(Technological)は、業界に大きな変化をもたらす可能性がある事項について洗い出します。例えば、ICT、AIやloTなどの新技術の発展、関連技術・製品の普及状況、その技術開発への投資や特許出願状況等の要因を抽出します。

■5Force(ファイブフォース:5つの力)による業界の競争環境を分析します。

1.業界内の競争

競合他社との状況を洗い出します。
ライバルが多く、業界自体が供給過多の場合、価格競争に陥っているケースや、技術革新などによる製品のライフサイクルが短くなっているケースなどもありますので、あなたの会社に影響する事象を取り上げます。

2.供給者の圧力

その業界に製品やサービスを提供する供給業者(売り手)の強弱の状況を洗い出します。
サプライヤー(供給業者)の数が少なく、一部企業で寡占している場合(例:パソコンのOS市場におけるマイクロソフト社など)は、売り手の価格交渉力が強くなります。また参入企業が多いと業界の収益低下や競争が熾烈になります。

3.ユーザーの圧力

顧客(買い手)の価格交渉力の強弱の状況を洗い出します。
どの企業も同じような製品を作っている場合は、価格競争に陥り、顧客は最も低い価格で購入するでしょうし、逆もあります。また、直接のユーザーは取引先の企業や商社、代理店になりますが、ここはその先のエンドユーザー(最終消費者など)は誰なのかも見ておく必要があります。

4.新規参入の脅威 5.代替品の脅威

参入障壁が低く、新規参入が容易な場合はすぐに競争が熾烈になるはずです。逆に、新規参入が少ない場合は、相対的に参入障壁に守られた産業になります。
同じく、現在の製品に代替する製品が存在するかどうか、もしくは将来出てくる可能性があるかどうかも見ておきましょう。代替品が存在する場合、顧客が価格によって、スイッチする可能性もあります。

これらを見ておくと、あなたの会社が直面する機会(チャンス)も分かれば、逆に脅威(ピンチ)も分かりやすくなります。

III-1-4 あなたの会社の内部環境(強みと弱み)の分析 <事業戦略シート 3.ミクロ・自社分析>

外部環境分析と比較するため、あなたの会社の内部環境として自社の資源(リソース)を振り返っておく必要があります。

■ポジショニング分析

競合の製品・サービスと比較した上で、業界内でのポジショニングを把握します。
ポジショニングとは、他社との比較(立ち位置やシェアなど)、また過去(前年度など)とも比較することであなたの会社の位置付けが明確になり、優れている点(差別化要因)、劣っている点が分かります。これがあなたの会社の強みでもあり、また弱みでもあります。

■バリューチェーン(価値連鎖)

販売する製品の開発、製造、販売される過程(プロセス)で、存在しているプレーヤーと、あなたの会社にとっての位置付けを整理すると、特にどの過程が優れているのかが明確になります。優位性を得るためにはどの活動を強化すべきなのか、顧客に対する貢献度の低い活動はどこなのかなど、自社の強みや弱みを把握することができます。

他に、自社の製品・サービスを他社と比べて特異性を見る「VRIO分析」(価値Value、希少性Rarity、模倣困難性Inimitability、組織適正性Organization)や、自社がどのような商品・サービスで儲けているかを明確にする「ビジネス(サービス)モデル分析」もあります。また、ポジショニング分析の一つですが、「マーケティングの4P」(Product、Price、Place、Promotion)を競合他社と対比させ、あなたの会社の強みと弱みを明確にする分析や、対象市場における顧客(Customer)を明確化し、競合他社(Competitor)の強みに対して、自社(Company)の強みはどうなのかを明確にする「3C分析」もあります。

以上の内部環境の分析によって、あなたの会社の強みが明確になり「なぜあなたの会社が存続して儲かっているのか」=「あなたの会社の武器」がわかります。

SWOT分析

これまでの現在の分析から、あなたの会社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)をまとめておきます。これらの頭文字を取ってSWOT分析と言いますが、ここがどこまで本質的に沢山挙げられているかで、次の「事業戦略」の策定内容に影響します。

III-1-5 あなたの会社の「事業戦略」策定に向けた準備 <事業戦略シート 3.ミクロ・自社分析>

特に強みを機会にぶつけることが重要です。あなたの会社の弱いところを直しても他社と同じになるだけで、なかなか次のビジネスにつながりません。しかしながら、強みはその企業の武器です。これをチャンス到来のタイミングにさらに投入できれば、他社よりも有利なのは明らかです。

III-2 ありたい姿(5年後)

次に「事業戦略」そのものを策定していきましょう。まず、メンバーが思い描いている「ありたい姿」を書き出してみて下さい。ここでは、5年後としていますが、あくまでも目安です。会社としては、事業を継続的に(永続的に)利益を上げて発展し、人材を借りている社会に報いていくことが求められます。

III-2-1 着地点(5年後)の目標 <事業戦略シート 4.着地点の目標>

ありたい姿が書きづらい場合は、以下の考え方(フレームワーク)を参考にして下さい。例えば、今の事業をどう広げるかについて考えてみましょう。

市場(顧客)と製品(事業)を軸として事業の拡大を図る場合には、主に次の4つの方法が考えられます。

  1. 既存の市場(顧客)に対して認知を高め、販売促進を行いサービスを充実させて既存の製品(事業)の売上を増やす、あるいは市場の占有率を高める「市場浸透」
  2. 新たな市場(顧客)獲得に打って出る「市場開拓」
  3. 既存の市場において、関連製品を含めた新たな製品を作って売っていく「製品開発」
  4. 既存事業の枠組みを越えた新規事業の立上げを行う「多角化」です。

この他にまずは収益性を改善させるために業務を効率化してコストを削減したり、生産性を向上したりすることもあります。さらに、働き方を改革し、もっと付加価値のある業務に注力することもあるでしょう。これは、上記の市場開拓、製品開発とも並行して行うこともできます。
以上のような方法を参考に、5年後の着地点の目標を書き出して下さい。

III-2-2 中長期の業績の目論見 <事業戦略シート 4.着地点の目標 8.中長期業績目論見>

本来は先に、さきほど決めた着地点に対して、何をしなければいけないのか、つまり課題を明確に設定する必要があります。

ですが、先に5年後の着地点を決めたので、その時点に実現したい利益の目標を描いておきましょう。もちろん、これは以降の課題を設定していくなかで、これ以上もっと行けそう、逆にこれは無理そうならば、振り返って修正してもらえれば良いです。

その際、いきなり大きな利益を稼ぎ出す売上と費用の目標を立てるのではなく、あなたの会社の身の丈、つまり財務諸表の貸借対照表(B/S)や、損益計算書(P/L)の過去から現在までのトレンドまでも見ながら、現状を踏まえて利益の目標を導き出して下さい。

例えば、数年後に自社ブランドの製品開発を行う場合は、その前にそのための投資を行っておく必要があります。そこで増強した設備の減価償却費が以降に計上されて販売管理(販管)費が増えますが、製品が売れる頃には売上はより大きくなるはずです。これらの計画と目論見を連動させておく必要があります。

なお、年度毎の営業利益の下に、要員計画、人件費、減価償却費、付加価値額の項目があります。計画には、人材獲得等が絡んできますので、人員数を明記し、人件費を計上します。さらに設備投資に関連する減価償却費も明記し、それらと営業利益との合計額である付加価値額(=営業利益+人件費+減価償却費)を明記します。これらを上げていくのも、自社の本業での利益(営業利益)の向上と共に、県全体の雇用促進、設備投資でも貢献できることになります。今後、補助金等の支援を得るためには、これらの視点も考慮する必要があります。

この時点では机上の話ですが、実現方法を遂行していく、つまり設定する課題を解決していくことにより、利益が上がり、あなたの会社が成長します。利益が増えていけば、あなたの会社の関係者は必ずや“ハッピー”になれるはずです。

III-3 実現するための課題設定

III-3-1 着地点(5年後)に向けた取組課題 <事業戦略シート 5.着地点に向けた取組課題>

まずは、ありたい姿に向けた大きな課題を洗い出しておきましょう。これは着地点(5年後)の目標に対してですので、大きな課題を書き出しておくことになります。特に限られたリソース(人、時間など)で最大限に利益を獲得できるようにするにはどのような課題(生産性向上など)があるのか、大きな視点で考えてみて下さい。なお、II-3-2の各視点に対する課題を設定した際、新たな課題が出てきたら、再度大きな課題を修正してもらってももちろん構いません。

III-3-2 指標となる数値(KPI)の目標 <事業戦略シート 6.指標となる数値の目標>

今後の売上、利益の目標に見合うよう、経営全体の視点から、それにいたるまでの目標数値を掲げておく必要があります。

これは、売上に見合う営業利益(本業で稼ぐ利益)、その伸び率などの財務の視点から、顧客満足度の向上、クレーム発生件数の減少など顧客から見える視点、さらには顧客に見える前の不良発生率などのあなたの会社の業務プロセス上での視点、その根底にある人材の育成、そもそも社員の定着や確保など、学習と成長および働き方も含めた人・組織の視点で目標を設定します。

これらは、社員がいつまでも居たい会社になり、その社員が勉強し、業務が効率的に運用されれば、顧客に受け入れられ、売上が上がってコストが下がり、利益が増すという考え方です。

要するに、「風が吹けば桶屋が儲かる」を経営的に見たもので、利益を上げるにしても、そこに至る途中点にちゃんと分解して目標値を設定しておこうというものです。

III-3-3 1年目の取組課題 <事業戦略シート 7.1年目の取組課題>

これまでに作った目標を実現するため、あなたの会社の各部署および各担当者は何をしなければいけないのでしょうか。目標に対して、大きな課題を財務、顧客、業務プロセス、学習と成長(人・組織、例:働き方改革)の視点で、特に初年度(1年目)に取り組む課題を分解して洗い出しておきましょう。これが今後取り組んでいくToDo(やるべきタスク)のチェックリストになります。

これらが出来上がれば、どこから始めるかの実行計画の策定に移れます。それができれば、ひとまず「事業戦略」は完成です。

III-3-4 中長期業績目論見の確認 <事業戦略シート 8.中長期業績目論見>

今後の売上、利益などの目標を、現状をふまえて再度設定・調整します。